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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)43号 判決 1960年2月18日

主文

本件上告を棄却する。

理由

検察官の事件受理申立理由第一、二点について、

改正刑法仮案二七六条一項には、「鉄道、灯台又ハ標識ヲ損壊シ又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ汽車、電車……ノ交通ニ妨害ヲ生ゼシメタル者ハ十年以下ノ懲役ニ処ス公共ノ危険ヲ生ゼシメタルトキハ一年以上ノ有期懲役ニ処ス」と規定して、いわゆる汽車、電車等の交通妨害罪は、その交通に妨害を生ぜしめる者を処罰せんとするものであるが、現行刑法一二五条一項は、「鉄道又ハ其標識ヲ損壊シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ汽車又は電車ノ往来ノ危険ヲ生セシメタル者ハ二年以上ノ有期懲役ニ処ス」と規定しているのであるから、現行刑法のいわゆる汽車電車の往来危険罪は、鉄道又はその標識を損壊し、又はその他の方法を以て、汽車又は電車の脱線、顛覆、衝突、破壊等、これら交通機関の往来に危険な結果を生ずる虞のある状態を発生させることにより成立するものと解するのが相当である。

ところで本件において、原審が認定した事実によれば、本件二日市駅信号所の信号設備は、いわゆる連動式自動閉塞機であって、同信号所において電車の通行に必要な信号操作を放置すれば、右信号機の操作の特質上、同駅構内の各信号は、すべて自動式に停止信号となって、電車は同駅構内に進入することを阻止され、構内信号灯外に停車を余儀なくされ、先行電車が構内信号灯外に不時停車をすれば、右連動式自動閉塞機の作用によって、右先行電車外方の閉塞機は直ちに停止信号となるのであって、その間、電車の顛覆、脱線、追突等の危険の虞ある状態は、毫も作成されるものでなかったというのであり、そして、第一審判決の適法に確定したところによれば、右のごとく停止信号となった場合においては後続電車は、右停止信号灯外に一旦停車した後、危急の際直ちに停車しうるため時速一〇粁以下の低速で進行する様に運輸規程上定められており、従業員はこれに従う様常時訓練されており、また、右構内信号灯、停止信号灯間に相当の距離があり、且つ、本件では右停止信号灯附近の見透し極めて良好な場所であって、しかも昼間晴天の日を選んで行われたから先行電車の定位置外の不時停車による後続電車の追突等の危険発生の虞もなかったというのである。されば、被告人らが判示信号操作を放置したことによっては、本件の場合、直ちに所論電車の往来に危険な結果を生ずる虞ある状態を発生させたものということはできない。したがって原判決が本件公訴事実(第二)中、被告人らが右の行為によって判示会社の電車運行業務を妨害した点のみを有罪とし、電車往来の危険罪につき、犯罪の証明がないものとして無罪の判決をしたのは結局正当であり、所論の違法があるとは認められない。

よって刑訴四一四条、三九六条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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